ADHDのワーキングメモリを「鍛える」科学的方法とは?脳トレより効果的なハック術

疑問を持つ女性のイラストADHD攻略

どうも、AmbiLaboのAmbiです。

「さっき言われた指示が、もう頭から消えている」 「会話中、相手の話を理解しようとしてる間に、自分が何を言おうとしたか忘れる」 「買い物リストを見たはずなのに、買い忘れる」

もし、あなたがこんな経験に心当たりがあるなら それはあなたの「記憶力」が悪いとか「やる気」の問題じゃありません。

それは、ADHDの特性が関わる「ワーキングメモリ」という、あなたの脳の「作業机」が、少し小さいせいかもしれません。

この記事では、 ワーキングメモリとは何か? なぜADHDの課題になりやすいのか? 科学的に有効な「鍛え方」と「ハック術」 この3点を、当事者目線で徹底的に解説していきます。


【Labo】ワーキングメモリとは?(脳の「作業机」の仕組み)

まず、ワーキングメモリの正体を知りましょう。 これは単なる「短期記憶」(情報をただ置いておくだけ)とは違います。ワーキングメモリとは、 情報を一時的に「保持」しながら、その情報を使って「作業(処理)」を行う ための、脳の高度な認知システムです。脳科学では、この「作業机」が、主に3つのパーツで動いていると考えられています。

司令塔(中央実行系)

これがワーキングメモリの「核」です。 まさに「作業机の持ち主」であり、脳の司令塔(実行機能)そのもの。

  • 注意のコントロール: どの情報に集中するか決める
  • 情報の取捨選択: 机の上に「必要な情報」だけを残し、「不要な情報(雑音)」を捨てる
  • 処理の切り替え: 会話を聞きながら、返事を考える(マルチタスク)

「今、何をすべきか」を判断し、後述する2つのメモ帳に指示を出す、最も重要な部分です。

耳のメモ帳

これは「聴覚情報(言葉や音)」を一時的に保存するメモ帳です。 頭の中で、聞いた言葉を「復唱」する機能だと思ってください。

  • 例1: 人から言われた電話番号を、忘れないように頭の中でブツブツ繰り返す
  • 例2: 人からの指示を、頭の中で反芻(はんすう)する

このメモ帳の容量が小さいと、指示が長かったり、話が早かったりすると、復唱が間に合わずに情報がこぼれ落ちてしまいます。

目のメモ帳

これは「視覚情報(映像や位置)」を一時的に保存するメモ帳です。 頭の中に「映像」や「地図」を思い浮かべる機能です。

  • 例1: 見たばかりの人の顔や服装を覚えている
  • 例2: 頭の中で地図を思い浮かべて、目的地までのルートを考える

これら「司令塔」「耳のメモ帳」「目のメモ帳」が連携して、初めて「ワーキングメモリ」として機能します。 料理中に「レシピ(目のメモ帳)」を思い出し、「タイマーの音(耳のメモ帳)」を気にしながら、「次にやる作業(司令塔)」を判断する。これがワーキングメモリの仕事です。


【Labo】なぜADHDの「課題」なのか?

じゃあ、なぜADHDの特性があると、この「作業机」が課題になりやすいのか?

それは、脳の司令塔(前頭前野)の働きがユニークだからです。 情報の取捨選択に関わる「ドーパミン」の働きが、ワーキングメモリ、特に「司令塔(中央実行系)」に強く影響します。

ADHDの脳は、入ってくる情報に「優先順位」をつけるのが少し苦手です。 司令塔が「どの情報が大事か」をうまく判断できないと、

「窓の外を飛んでいる鳥」(目の情報) 「隣の人のタイピング音」(耳の情報) 「上司からの大事な指示」(耳の情報)

これら全ての情報を、司令塔が「全部大事かもしれん!」と判断し、それぞれのメモ帳に全部詰め込もうとしてしまいます。 当然、メモ帳は一瞬でパンクします。

結果、一番大事だったはずの「上司からの指示」が、メモ帳からこぼれ落ちてしまう(忘れる)。 これが、「指示が頭に入らない」や「集中力が続かない」と感じる科学的な理由です。


【Ambi】ワーキングメモリを「鍛える」科学的な方法

「じゃあ、その作業机(ワーキングメモリ)を鍛えればいいんでしょ?」 そう思いますよね。 僕もそう思って、色々調べました。

ここからがこの記事の核心です。

脳トレ(Nバック課題など)の「実生活に転移するのか」問題

よく「脳トレアプリ」や「Nバック課題」でワーキングメモリが鍛えられる、と言われます。自分もスマホでよくやっていました。 これ、間違いではありません。 ただし、条件があります。

科学的に分かっているのは、 「そのゲームのスコアは、やればやるほど上がる」 「でも、その効果が実生活(買い忘れ、指示忘れ)に転移(応用)するかは怪しい!」 ということです。

ゲームが上手くなることと、生活が楽になることは、イコールじゃないんですね。 だから、脳トレだけに頼るのは、ちょっと効率が悪いかもしれません。

本質的な鍛え方①:脳の土台を整える(運動・睡眠)

じゃあ、本質的に脳のスペック(作業机や司令塔)を鍛えるにはどうするか? 結論は、脳の土台を整えることです。

これは僕自身が最も効果を実感している方法でもあります。

  1. 運動(特にHIIT筋トレ 運動は、脳の血流を劇的に増やします。 特に、ワーキングメモリの「司令塔」がある「前頭前野」を活性化させ、脳の神経を成長させる「BDNF(脳由来神経栄養因子)」を増やすことが分かっています。 脳トレアプリをポチポチするより、4分間HIITのバーピーをした方が、よっぽど脳に効くんです。
  2. 睡眠 言うまでもなく、最強の脳のメンテナンスです。 睡眠不足だと、前頭前野(司令塔)の働きは真っ先に低下します。 いくら机が広くても、寝不足でゴミだらけだったら作業なんてできません。 ワーキングメモリを鍛える以前に、まず「脳をクリーンな状態」に保つことが最優先です。

本質的な鍛え方②:「外部化」で脳の負担をゼロにする

そして、脳の土台を鍛えつつ、当事者が「今すぐ」できる最強のハック術。 それが、ワーキングメモリを「使わない」仕組み(=外部化)です。

脳のメモリが弱いなら、脳で覚えなければいい。 すごくシンプルです。

  1. 「即時メモ」を徹底する 「あー、あれやらなきゃ」と思った瞬間に、1秒でスマホのリマインダーやメモアプリに入力します。 「後でメモしよう」は禁句です。 「覚えておこう」とすること自体が、ワーキングメモリ(特に耳のメモ帳)を激しく消費するからです。 脳で覚えるのを完全に放棄します。
  2. 「チェックリスト」で自動化する 「朝の準備」「仕事の締め作業」「投稿手順」など、繰り返し行うことは全部チェックリスト化します。 「次、何をすべきだっけ?」と考える作業も、ワーキングメモリ(司令塔)を使います。 これをゼロにするだけで、脳の負担は劇的に減ります。

まとめ:脳の土台を「鍛え」つつ、仕組みで「補う」

ワーキングメモリは、多くのADHD当事者がぶつかる大きな壁です。

でも、その特性は「欠陥」なんかじゃありません。 「今この瞬間にリソースを全振りする」という高性能な特性の裏返しでもあります。

脳トレだけに頼るのではなく、 ① 運動と睡眠で、脳の「土台」を地道に鍛え ② 「外部化」という仕組みで、脳の「負担」を賢く補う

この両輪で、あなたのユニークな脳をハックしていきましょう。 もう「覚えてられない自分」を責めなくて大丈夫です。


この記事を読む上での重要なお願い(免責事項)

この記事で解説しているADHDの特性や、その活かし方に関する考察は、筆者自身の経験とリサーチに基づいたものであり、特定の生き方やキャリアを推奨するものではありません。

ADHDの特性の現れ方や、最適な環境は、一人ひとり全く異なります。この記事は、ご自身の特性を理解し、可能性を探るための一つの「視点」としてご活用ください。

また、この記事は医学的な診断や治療に代わるものではありません。ADHDの診断や治療、あるいは仕事や人間関係における深刻な悩みについては、必ず医師やカウンセラーなどの専門家にご相談ください。

【情報源・参考文献】

  • 成長科学協会 (n.d.). 第15回公開シンポジウム 「AD/HDをめぐる問題」. [PDF]. 成長科学協会. https://www.fgs.or.jp/pdf/05_symposium/03_2001-2010/02_outline/191_outline_15.pdf
  • すらら (2017, June 15). 【低いワーキングメモリは改善できる?】7つの鍛え方と5つの解放策で子どもの脳の処理能力をアップ. オンライン・タブレット学習教材のすらら. https://surala.jp/column/childcare/25637/
  • CareNet Academia (2025, September 28). ADHD患者のワーキングメモリー、デュアルN-バック訓練で改善効果. CareNet Academia. https://academia.carenet.com/share/news/9658906e-3d42-44d3-b4bb-32a4d4912763
  • スパーク運動療育 西京極スタジオ (n.d.). 【レビュー論文を紹介】運動がADHDの子の認知機能や特性に与える効果について科学的にわかってきた?. スタジオ便り. https://daiki.kyoto/hanasakumiraikapurisu/blog/article/【レビュー論文を紹介】運動がADHDの子の認知機能や特性に与える効果について科学的にわかってきた?/
  • CareNet Academia (2025, September 22). ADHD児童のワーキングメモリー、複合運動で改善効果. CareNet Academia. https://academia.carenet.com/share/news/39b02999-114c-4683-8587-6aeec5afce58
  • akihiro-chiro-child.com (2025, June 8). 【ワーキングメモリとは?】ワーキングメモリ改善方法やメモリの低い子どもの勉強法を紹介. akihiro-chiro-child.com. https://akihiro-chiro-child.com/blog/2024
  • 横浜呼吸器クリニック (2023, November 22). 睡眠不足が前頭葉の機能にどんな影響を与えるのだろうか. 横浜呼吸器クリニック. https://yokohama-sas.com/2023/11/22/231122/

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